動く眼球
突然、私の頭の中で、ひとつの記憶が、ゆらりと立ち上がりました
ある夜、運転中に谷川大輔が話した「元カノ」の話
「友達から紹介された女の子なんだけどさ、いろいろ世間話していったら、出身地が同じってことが分かって。
で、小さい頃住んでた町も、すっげー近所でさ。
学区は違うから同中じゃなかったんだけど。
更につっこんで話したら、なんと生年月日が同じだったの!
で、更になんと、生まれた病院も一緒!
つまり2人とも同じ日に同じ場所で生まれてて。
これは運命でしょ☆って、結局付き合うことになって・・」
暗い車内で饒舌に話す彼の横顔を、対向車のライトが次々と照らし出しては去っていきました
私はその様子を見ていました
その時、一瞬、彼の眼球だけが助手席の私の方にぐるり・・と動いたのです
まるで、なにかを確認するかのように
薄気味の悪さを感じたのは、私の本能が危険を教えてくれていたのでしょう
しかし、その時の私は、本能からの警告を無視してしまったのでした
- 作者: 高村薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/07/28
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