動く眼球

突然、私の頭の中で、ひとつの記憶が、ゆらりと立ち上がりました


ある夜、運転中に谷川大輔が話した「元カノ」の話


「友達から紹介された女の子なんだけどさ、いろいろ世間話していったら、出身地が同じってことが分かって。

で、小さい頃住んでた町も、すっげー近所でさ。

学区は違うから同中じゃなかったんだけど。

更につっこんで話したら、なんと生年月日が同じだったの!

で、更になんと、生まれた病院も一緒!

つまり2人とも同じ日に同じ場所で生まれてて。

これは運命でしょ☆って、結局付き合うことになって・・」


暗い車内で饒舌に話す彼の横顔を、対向車のライトが次々と照らし出しては去っていきました

私はその様子を見ていました

その時、一瞬、彼の眼球だけが助手席の私の方にぐるり・・と動いたのです

まるで、なにかを確認するかのように

薄気味の悪さを感じたのは、私の本能が危険を教えてくれていたのでしょう

しかし、その時の私は、本能からの警告を無視してしまったのでした

マークスの山(上) (新潮文庫)

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